OHKジャーナル

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2022/4/15

OHK TALK vol.2

一般社団法人輝水会
代表理事 手塚由美さん

スポーツを楽しむことで心身の自立を促し、認め合える関係づくりを

脳損傷や神経難病などにより生活機能に課題がある人が、水中リハビリテーションやリハビリテーション・スポーツを通して、体力の維持や向上を目指し、患者から生活者となることで輝く人生を送るための心のきっかけづくりを行っている一般社団法人輝水会。障害がある人と障害がない人のどちらかが、してあげる・してもらうという関係ではなく、スポーツを共に楽しむ仲間になることで、社会参加を促していきたいと2012年に設立されました。代表理事を務める手塚由美さんに、同じ世田谷区で活動を続けるOHKの川尻健市が話をうかがいました。

水の中で人は輝く

川尻: 今日はいろいろとお話を聞きたいと思っているのですが、まずは輝水会を立ち上げた経緯から教えてください。

手塚: 私は大学時代に競泳をやっていて、卒業を機に水泳のインストラクターとして働き始めました。最初は一般の方が対象で、その中に腰痛や膝痛で悩む高齢者が参加されていたため、水中で腰や膝に負担をかけずに筋力を上げていくための指導をしていました。以前よりも動けるようになったり、心が前向きになって元気を取り戻していく方々を見てやりがいを感じるようになり、整体や心理学、水中整体を学んでパーソナルレッスンを行っていたところ、輝水会設立のきっかけになった人たちと出会いました。

川尻: 輝水会の委員を務める三嶋さんですか。

手塚: 三嶋ともう一人、リハビリを行いたいので一緒にプールに行ってほしいとお願いされた方に、ほぼ同時期に出会ったんです。麻痺のある方に対応したのはその時が初めてでしたが、今まで高齢者向けに行ってきたことが、そのまま応用できると気付きました。自分が得意としてきた水の中のことで、こんなにもお役に立てるならもっと力を入れたいという思いが強くなりました。

川尻: 三嶋さんは健康だった時は泳げなかったのに、プールでリハビリを続けたことで泳げるようになったそうですね。

手塚: そうです。三嶋は脳出血を発症して重度の言語障害と片麻痺が残ったのですが、発症する前は弁護士として活躍していました。発症したことで仕事を失い、人生のどん底を味わったようですが、1年かけて泳げるようになってからは徐々に気持ちも変わっていったようです。出会った後に私は輝水会とは関係ない相談を持ちかけたのですが、三嶋は「障害のある自分に頼み事をするなんて」と驚いたみたいです。けれど「自分にできることで人が喜んでくれるなら、もう一回頑張ろう」と奮起し、協力してくれました。その後、活動を組織化して水中リハビリテーション(以下水中リハビリ)を広めていこうと話はまとまり、輝水会を一緒に立ち上げました。

ボッチャ、卓球、プールの三つをセットに

川尻: 水中リハビリに、リハビリテーション・スポーツ(以下リハ・スポーツ)が加わったのは、いつ頃からですか。

手塚: リハ・スポーツはもともと横浜市にある障害者スポーツ文化センター横浜ラポールで実施されていたプログラムで、障害のある人たちが社会に参加していくための一歩としてボッチャや卓球が取り入れられていました。そこでリハ・スポーツを伝授いただいて世田谷区の助成を受けながら、普及に取り組み始めたのが2016年です。

川尻: リハ・スポーツはボッチャと卓球と水泳を組み合わせたものです。初回にオリエンテーションを行った後は、ボッチャ、卓球、プールをそれぞれ3回ずつ行うと聞いていますが、どうして三つを組み合わせているんでしょうか。

手塚: 私は水の中が得意なので、プールを入れたプログラムにしたいと思っていました。ボッチャと卓球は、道具さえあれば体育館でなくてもできます。手軽にできることも重視しました。プログラムの最後は一番ハードルが高いと感じられるプールに入りますが、できないと思っていたことができるようになると達成感が得られ、自信がつきます。歩くことも不自由な人がプールに入るわけですから、最初はみなさん怖がられますが、いざプールに入ると本当に嬉しそうな顔をされますよ。

川尻: どのプールでも実施できるんですか

手塚: できますが、プールに入る階段の両側に手すりがついているなど、リハ・スポーツを行う人にとって重要な設備が整っているプールは少ないです。ただ世田谷区には水中活動室という水中リハビリのためにつくられたプールが一つあって、そこにはリフトが設置されているので歩けなくてもプールに入ることができます。

川尻: そんなプールがあるとは、世田谷区で活動しているのに知らなかったです。

口コミが一番の広報ツール

川尻: リハ・スポーツの参加者は、どこで情報を得て参加されるケースが多いんですか。

手塚: 当事者から直接お問い合わせいただくケースはほぼありません。担当医やケアマネージャーといった関係者から紹介されて参加されるケースが一番多いです。区報に情報を掲載したりしていますが、それだけではなかなか広まりません。近しい人からの口コミが一番効果的かなと思っています。

川尻: 僕も口コミが効果的だと思っています。

手塚: 信頼できる人の言葉は響きますからね。でも口コミだけで、果たして本当にリハ・スポーツを体験してほしい人に情報が伝わるのかと疑問に思います。

川尻: OHKもまったく同じです。ファッション感度の高い人は、すでに自分に合ったお洋服を選んで着ています。OHKのお洋服を本当に届けたい人というのは、これまでおしゃれに興味がなかったり、ケガをしたことで今まで着ていたお洋服が合わなくなった人です。そういう人たちにOHKのお洋服を手に取っていただいて、ファッション的な自立に役立ててほしいですし、生活の中の楽しさが増えるアイテム、ブランドにしたいと思っていますが、どうすれば当事者に情報が届くのかと僕も悩んでいます。
輝水会は設立からすでに10年経っていますが、活動を周知していくにはそれくらい時間がかかることなのかなと、話を聞いていて身につまされる思いがしました。いろいろ失敗しながらでも諦めないことが大事なんでしょうね。

手塚: 知り合いのPT(理学療法士)やOT(作業療法士)のメンバーを紹介しますよ。私も最初は全然知り合いがいなくて苦労しました。世田谷区でも頑張っている人は多いですが、異業種交流のような活動がないとお互いことを知る機会も少ないですよね。どの分野で活動しているのかに関係なく横のつながりができたら、情報も活発に行き交うようになると思います。

リハビリではなくレジリエンス

手塚: OHKのお洋服は、当事者の声があって生まれたと聞いています。みなさんに話を聞くとこちらが思いつかないようなアイデアがたくさん出てきますよね。

川尻: そうです。OHKは知り合いの理学療法士から相談を受けて、片手でも着やすいユニバーサルなお洋服をということで考え、当事者の方々に試着してもらって改良を重ねてきました。また現在、片麻痺の方に協力いただいて、その方に合わせたお洋服をつくるプロジェクトを進めています。その過程で得られた知見を、既存のアイテムに反映していくことで、改良を重ねていきたいと考えています。

手塚: OHKのサイトを拝見すると女性がお洋服を着ていらっしゃるけれど、例えばサルエルパンツは男性でも着用できますよね。ご夫婦で介助する側になるのは大抵が奥様です。だから奥様がご主人に着せやすいものとか、女性から見て購入したいなと思える商品だとさらに広がるのではないでしょうか。

川尻: 女性向けとして開発しましたが、男性のユーザーさんもいらっしゃいます。ウエスト部分に紐を付けているので、片手でもウエストのところまで簡単に上げられますから、介助する側の人たちに訴求できればいいですね。貴重なアドバイスありがとうございます。では最後に輝水会の今後の目標を教えてください。

手塚: 障害者スポーツをもっと普通に地域に根付かせて、障害があるなしに関係なく誰もが一緒にスポーツを楽しむ文化をつくりたいです。スポーツを一緒に楽しむなかで、ちょっと困っている人がいたらこんなふうに助けようという気付きを得たり、逆に障害のある人が誰かにサポートしてもらうのを待つだけじゃなくて、自分から声を上げていくべきなんだと知る。リハ・スポーツは、そんな学びの場づくりつながると思っています。

川尻: そうですね。僕もOHKを通して、障害があるなしに関係なく、誰もがおしゃれを楽しんでほしいと思っています。取り組んでいることは違いますが、目指している方向は同じですね。

手塚: おっしゃるとおりです。より多くの人が参加しやすいように、今後は「レジリエンススポーツ」という名称にしようと考えています。これは当事者から「私たちがやっているのはリハビリではなくレジリエンスだ」と聞いたことで思いつきました。レジリエンスには、緩やかに回復していくとか、跳ね上がる力といった意味があります。リハビリというと辛くて、きつくて、大変という印象がありますが、私たちの活動は当事者がゆるやかに回復していくためのものです。スポーツや人との交流を通して、ちょっと心が活性化した結果、身体も少しずつ動くようになっていくことが目的ですから、障害のある人だけでなく、高齢者や若い人など世代に関係なく参加していただきたいですね。